まぐろ類缶詰

○まぐろ類缶詰とは
 まぐろ類缶詰とは、マグロ・カツオなどを蒸煮し、その精肉を調味料や油とともに金属製の缶に詰めて真空密封し、 加熱調理・殺菌したものです。昭和3年に静岡県水産試験場の技師が日本ではじめて製造したといわれ、 民間では清水で昭和5年の夏にビンナガを用いて製造開始されました。
 ビンナガを原料にした場合、製品の肉質が淡いピンク色を呈し、 ホワイトミートと呼ばれます。 キハダやカツオを原料にした場合は、肉の赤色がやや強いのでライトミートと呼ばれます。
まぐろ類缶詰
まぐろ類缶詰
(左からソリッド、チャンク、フレーク)
○原料選択のポイント
 原料となるビンナガは一本釣り、キハダ・カツオはまき網によって漁獲されます。 原料魚は、体表を削ぎ落として精肉だけを製品に用いるため、漁獲時に体表に多少の傷ができても問題ありません。 しかし、傷があるものは漁獲時の取り扱いで鮮度が劣ることがあるため、できるだけ傷のない高鮮度のものを選ぶようにします。 また、加工時の作業効率を上げるため、できるだけ大きさの揃った、反りのない原料を用います。
○加工の原理
 金属製の缶に魚肉、調味液、油などを入れ、缶を真空状態にして密封・加熱することで、調理と同時に殺菌を行い、保存性を高めます。
○実際の製造
 まぐろ類缶詰は大別すると水煮、油漬、味付の3つに分けられます。 いずれも作業工程はほぼ同じであるため、以下に代表的な製造工程を説明します。
 まず最初に、原料の冷凍魚を一晩流水中のタンク内で解凍し、頭部を切断後、内臓を除去します。 そして腹部を下にしてレトルトクーラーに並べ、クッカーに入れて蒸煮します。 蒸煮時間は原料の大きさによって異なりますが、 およそ180~210分です。魚体中心部の温度が75℃前後に達する時間を基準にしています。
 次に、皮をとり、魚体を左右に2つ割にして中骨を除き、さらに背腹(4つ割)に分けた後、 ナイフで血合肉、小骨などをきれいに削り取ります。これらの工程は基本的に手作業にて行われます。
> いよいよ肉詰めです。肉詰めは機械により行われ、 チェッカー(自動秤量機)を通して肉詰め不良缶の軽過量を調整後、調味液や植物油などを注入します。 油漬は野菜ブロスと植物油を、味付は醤油と砂糖を調合したもの、水煮タイプは油を除いた調味液、 または水のみを注入します。その後、真空巻き締め機で密封を行います。 最後に、密封した缶を水で洗浄した後、115℃、80~90分位で加熱・殺菌します。
●製造工程図
原料魚解凍流水解凍
生切処理頭と内臓を除去。
魚体高圧洗浄切断時の汚れを洗浄。
蒸煮100~105℃、3hr
放冷自然放冷、22~23℃、1昼夜
クリーニング血合肉、小骨を除去。
肉詰、注液、密封
水洗、殺菌115℃、80~90分加熱。
冷却
検査
包装
出荷
○歩留り
 魚体の大きさ、缶詰の種類などによって多少の差がありますが、原魚重量比で約35%の歩留りとなります。 加工工程中で出る残滓(ざんし)は、肥料やエキスなどに処理、有効活用されます。
○製品の形態・包装等
 マグロ類の缶詰は、大別してソリッド、チャンク、フレークの調理形態があります。 ソリッドは精肉の塊を詰めたもので、油漬缶詰のみでつくられます。チャンクはほぐし肉(一口カット)、フレークは砕肉を詰めたものです。 これらは、油漬、味付、水煮のすべてでつくられています。
 缶は、印刷缶の内面塗料缶を使用し、国内向けはラッカー缶、輸出向けはエナメル缶を使用しています。 最近では、缶のアタマ、底、側面から構成されているスリーピース缶に代わって、 ツーピース缶(缶のアタマと側面から底の二つ)の比率が高くなっています。 また、販売店のまとめ売りの要望に応じ、4缶程度ずつにパックしたシュリンクパック包装も増えてきています。
○安全・衛生管理
 生産工程中では金属探知機を設置し、異物混入をチェックしています。 また、製品中の異物を調べるため、軟エックス線を用いる場合もあります。 最近では、HACCPに基づく生産設備・管理手法を取り入れる企業が多くなっています。
○生産と消費の動向
 当初は、輸出向けが主体でしたが昭和30年代半ばから国内で売られはじめ、 昭和40年代半ばには国内消費が急激に増大しています。現在では静岡県が全国生産量の8割以上を生産しています。
 国内向けのまぐろ油漬缶詰は、当初ホワイトミートによって市場拡大しましたが、原料のビンナガマグロの漁獲が減少し、 魚価の高騰によって製品価格も上昇しています。このため、価格が安定しているライトミート製品の占める割合が、高くなってきています。 しかし、近年では原料のキハダマグロの価格が変動し、製品価格に影響を与えています。
 調理形態別にみた生産量のおよその比率は、油漬が70%、味付が10%、油入りを含む水煮が20%となっています。 近年の傾向として、油漬の減少、水煮の大幅な拡大傾向が続いていますが、 これは消費者の健康志向にメーカーが対応している結果とみられています。
 製品の大半を占める油漬製品について魚種別におよその内訳を見てみると、 キハダマグロが70%、ビンナガマグロが10%、カツオが20%となっています。 調理形態別比率では、ソリッドが減少し、フレーク、チャンクの比率が高くなっています。
まぐろ類缶詰生産量
水煮油漬味付その他合計
H1静岡2,244,89077,636,3839,345,755297,64389,524,671
全国3,133,07988,565,37611,558,879535,629103,792,963
H10静岡7,746,84442,019,6106,419,67243,87356,299,999
全国8,492,38349,807,4997,471,931195,27765,967,040
H15静岡9,882,12334,477,0575,310,47026,36149,696,011
全国11,711,79443,300,3135,895,868104,79261,012,767
(日本缶詰協会「缶詰時報」より引用)
○貯蔵性
 賞味期限は3年間を表示し、この期間は美味しく食べられます。 また注入油が肉に浸透し、魚油と置換した3~6ヶ月以降が食べ頃といわれています。 ソリッドの方が肉が固まっていて、魚油と注入油が置換するまで1~2ヶ月程長くかかります。
○食べ方
 そのまま醤油、マヨネーズ、ドレッシングなどをかけて食べても美味しいですが、 サラダ、サンドイッチの詰め物、コロッケ、ピラフ、和え物などの材料にも広く用いられています。 近年では、コンビニエンスストアなどで売られるおにぎりの素材として、非常に多く利用されています。
○将来の見通し
 まぐろの漁獲量に左右されるものの、国内向けの需要が継続してあるため、生産・販売ともに安定しています。 近年では、生産拠点を人件費の安い海外に移し始め、輸入も開始されています。
 今後は、低カロリーや健康志向といった消費者のニーズに合わせた製品が、さらに増えていくものと思われます。

鈴木進二(静岡県水産試験場)