ソフト裂きいか

○ソフト裂きいかとは
 ソフト裂きいかは、イカ本来の旨味と調味による呈味・保存性を付与した調味乾製品で、 特に酒やビールのつまみとして好まれています。この裂きいかには、するめを原料とした するめ裂きいかと、生鮮・冷凍原料によるソフト裂きいかがあり、 近年は後者が主流となっています。
 しかし、古くはイカの加工品と言えばするめが代表格であり、これを原料とした 調味するめ裂きいかが昭和の30年代半ばに本格的に大衆向け商品として スタートしたことが、今日のソフト裂きいか開発の発端となっています。
 なお、ソフト裂きいかは、剥皮した白色度の高い白裂きタイプと皮付きの黄金タイプ(黄金裂きいか)があり、 販売・流通量は同程度です。
左がソフト裂きいか、右が黄金裂きいか
左がソフト裂きいか、右が黄金裂きいか
○生産と消費の動向
 水産物流通統計年報による全国の裂きいか生産量は平成3年で1万9千トン、平成4年で2万3千トンと 一時的に増加しましたが、平成9年の1万4千トンまで漸減傾向にあります。このうち北海道産の占める割合は、 44.3%から49.2%で、その70~80%は裂きいか発祥の地、函館市およびその周辺で生産されています。 なお、近年は半製品(ダルマ)のみを製造する加工業者は減っており、 原料確保から製造までを一貫して行う場合が多いです。
ダルマ
ダルマ
 また、いか乾製品に占める裂きいかの割合は全国的には平成3年の45%から平成9年の28.6%に減少しています。 なお、本統計は平成10年以降、裂きいかを含むいか加工品としての集計に修正したため、 正確な生産状況の把握は困難となりましたが、業界での聞き取りでは、年々、生産量は減少傾向にあります。
裂きいかの生産量
図1 裂きいかの生産量
(水産物流通統計年報)
 一方、消費も菓子類との競合などにより低迷しています。このため、大手企業では生産や販売拠点を コスト的に有利な海外、特に中国に移す動きが見られるようになっています。なお、ソフト裂きいかの価格は、 白裂きタイプ、黄金タイプともに、ここ数年kg当たり1,700円前後で推移しています。
○原料選択のポイント
 原料については、アカイカ、カナダイレックス、アルゼンチンマツイカなどの輸入原料は、 組織構造の違いからソフト裂きいかの特徴となる「毛羽立ち」が劣るため、スルメイカが最適とされています。 しかし、近海スルメイカは漁獲量が不安定であるため、輸入原料や中国産のダルマも用いられているのが現状です。
 また、鮮度低下した原料から製造した製品は、褐変しやすいことが知られています。 褐変の原因として糖-アミノ反応が指摘されており、グリシンやアルギニンなどのアミノ酸、 リボースなどの還元糖に着目した研究が行われています。褐変は、鮮度だけでなく原料の成分にも影響を受け、 スルメイカに比べ、これらのアミノ酸が多いアカイカは褐変しやすいとされています。
○加工の原理
 裂きいかはイカの胴肉を細かく裂いた調味乾製品ですが、この製品の形状はイカ外套膜の表皮や筋肉の構造と 密接な関係があります。
 スルメイカを例にとれば、表皮は性状が異なる4層からなっています。この表皮の表側2層は方向性のない網状組織で、 容易に手で剥くことが可能です。また、第3層は筋肉類似組織です。第4層は縦方向に走る繊維性の強い結合組織で 筋肉と強く結合しています。イカの胴肉を加熱すると丸まるのは、この繊維が収縮するためです。
 また、筋肉部分は筋肉繊維層が外套膜に対し、直角方向に交互に存在しています。 皮を剥いだイカ筋肉が横に裂けやすいのは、この様な組織構造のためです。ダルマの圧焼、伸展後に行う 裂き工程は、このイカの表皮と筋肉の特性を利用したものです。
●製造工程図
原料イカ
調理 内蔵・頭脚部・鰭肉除去
剥皮 50~55℃の温湯中
煮熟 70~95℃で1,2分煮熟(写真
一次調味 (写真
乾燥 水分40%程度まで乾燥。(ダルマ、写真
冷凍・保管
圧焼 105~130℃で圧焼(写真
伸展 1.3~1.5倍程度まで伸展(写真
裂き (写真
二次調味 (写真
水分調節 水分25%程度まで乾燥(写真
製品
○実際の製造過程
 最初に、50~55℃の温湯中で5~6分間攪拌しながら皮を剥ぎます。業務用酵素を使用する場合もあります。 黄金タイプはこの工程を省略します。つづいて、70~95℃で1、2分間煮熟します。煮熟後、流水中で冷却します。 その後、食塩、糖、アミノ酸調味料などにより一次調味を行います。回転式ミキサーによりイカ肉と調味料を数時間から 一晩、混合します。他にもいくつか方法があり、加工業者よって異なります。
 つづいて乾燥の工程です。送風乾燥機により40~50℃で4~6時間乾燥します。 乾燥はイカ肉の水分含量40%程度まで行います。乾燥が終了した半製品をダルマと呼び、この段階で冷凍保管します。 その後圧焼機(ロースター)により105~130℃で5分間程度、圧焼する。圧焼機出口での品温は90℃程度に調節します。 圧焼したものは品温が55~60℃にあるうちに伸展機により1.3~1.5倍まで伸展します。 この工程は次の裂き工程を容易にし、毛羽立ちを良くするとともに柔らかさを持たせる上で必要です。
 いよいよ、裂きの工程です。品温がまだ温かいうちに、裂き機にかけます。機械裂きが不十分なものは 人手によって均一に裂きます。 裂き終わったものを回転式ミキサーの中に入れ、食塩、糖などの粉末調味料を 混合することにより、二次調味を行います。その後、熱風乾燥機により40~50℃で10~15分間乾燥し、 仕上げ乾燥を行います。最終製品の水分を25%程度に調整します。最後に、計量、包装後、目視や金属探知機により 混入物を検査し、製品とします。
裂き
裂き
○品質管理のポイント
 品質管理する上で、白色度の高い白裂きタイプは保管中の褐変が問題となります。 一般的に裂きいか製品は常温で流通されることが多いですが、褐変の抑制にはなるべく低温で保管することや 直射日光を避けるなどの対策が必要です。しかし、褐変には保管温度や日光のほか、添加物の種類や量なども 密接に関与しており、抜本的な解決は難しいのが現状です。
 また、裂きいか製品では水分、水分活性、塩分、PHなどが保存性や食感に直接関係するため、 これらは重要な品質管理項目となります。さらに、一般細菌、大腸菌群、サルモネラなどの微生物危害についても 管理を徹底する必要があります。
○製品の形態・包装等
 業務用として10kg前後の箱詰め、市販用として50g前後の袋詰めで包装され、出荷されます。

成田正直、福士暁彦(北海道立中央水産試験場)