さけ燻製品
- ○さけ燻製品とは
- さけ燻製は北海道を代表する名産品の1つで、その歴史は古く、松前藩時代にはアイヌ人が
「ラカン」と称し、サケを炉端の上に吊し燻製が作られていました。
また、本格的な生産としては明治38年に北海道水産試験場が石狩のサケを用いて
製造販売したとの記録が残っています。
- 燻製の形状は、冷蔵設備の不十分な昭和30年以前はラウンド(全形)あるいは
棒燻(背肉燻製)として生産されていましたが、昭和30年以降、冷凍設備や
真空包装機の普及により、外見が良く加工効率の高いフィレータイプの生産に
移行してきています。近年は外国産などの脂肪含量の高い原料を、燻製装置を用いて、
燻煙の色や臭いが少なく、塩分を減らし冷燻法よりも燻乾時間を短くしたソフトな
燻製品が多く流通しています。
- ○生産と消費の動向
- サケ、マス燻製品の生産量は、近年減少傾向にあり、平成8年、全国で約8600t
生産されていたものが、平成12年には約4600tに半減し、本州各県よりも
北海道での減少が著しいです。平成12年の主な生産地をみると、北海道(49.4%)、
茨城(13.1%)、千葉(12.4%)と続き、北海道は全国の生産量の約半分を占め、
重要な生産地となっています。
-
さけ、ます燻製品の主要産地と生産量*(単位t、全国対%) |
| H.8 |
H.9 |
H.10 |
H.11 |
H.12 |
全国 |
8,612 |
100 |
7,853 |
100 |
5,804 |
100 |
5,091 |
100 |
4,591 |
100 |
北海道 |
6,604 |
76.7 |
5,624 |
71.6 |
3,218 |
55.4 |
2,915 |
57.3 |
2,268 |
49.4 |
青森 |
119 |
1.4 |
91 |
1.2 |
68 |
1.2 |
- |
- |
- |
- |
岩手 |
144 |
1.7 |
201 |
2.6 |
325 |
5.6 |
241 |
4.7 |
301 |
6.6 |
茨城 |
110 |
1.3 |
370 |
4.7 |
380 |
6.5 |
342 |
6.7 |
600 |
13.1 |
千葉 |
424 |
4.9 |
628 |
8.0 |
689 |
11.9 |
572 |
11.2 |
570 |
12.4 |
神奈川 |
186 |
2.2 |
186 |
2.4 |
191 |
3.3 |
172 |
3.4 |
- |
- |
滋賀 |
308 |
3.6 |
225 |
2.9 |
219 |
3.8 |
203 |
4.0 |
194 |
4.2 |
大阪 |
330 |
3.8 |
160 |
2.0 |
290 |
5.0 |
290 |
5.7 |
295 |
6.4 |
鳥取 |
123 |
1.4 |
120 |
1.5 |
150 |
2.6 |
155 |
3.1 |
124 |
2.7 |
その他 |
264 |
3.0 |
248 |
3.1 |
274 |
4.7 |
201 |
3.9 |
239 |
5.2 |
|
*農林水産省水産物流通統計年表(平成8~12年) |
- ○原料選択のポイント
- 燻製に使用するサケはベニザケが主体で、シロザケ、サクラマスあるいはマスノスケの
一部や養殖のトラウトも原料とされています。ベニザケは北洋で漁獲されるもののほか、
アメリカなどから輸入された体脂肪10%前後のものが用いられています。北海道周辺で
秋に漁獲される産卵回帰したシロサケ(秋サケ)は、脂肪分も少なく、色調も劣ることから、
その利用は少ないです。良い原料としてのポイントは、鮮度が良いこと、冷凍の場合は
油焼けや身割れがないこと、脱鱗、蛇腹(骨離れ)、傷がないことが重要で、原料性状が
そのまま製品に反映されるため、細心の注意が必要とされます。
- ○加工の原理
- さけ燻製は、食塩を主体にした調味料で調味し燻煙処理することにより、
魚体乾燥と燻煙成分の付着により保蔵性と風味が付与された高級な加工品となっています。
燻製の品質を決定する要因はいくつかありますが、原料性状とともに燻煙処理による
独特の風味付けや殺菌効果もまた重要な要因の1つです。また、燻煙発生のために使用される
燻材は広葉樹が一般的で、針葉樹はあまり用いられていません。特に樹脂の多い松材などは
松ヤニ臭が付着し風味を損ねます。
-
べにざけ棒燻 |
スライスしたべにざけ棒燻 |
- 広葉樹では、サクラ、ブナ、カシ、ナラ、ヒッコリーなど樹脂の少ない堅木が用いられています。
最近はこれらの燻材がスモークウッドなどの商品名で大型資材店などで販売されています。
燻煙の成分は、タール、フェノール、アルデヒド、アルコール、酸類など約200種類が検出されていて、
燻材によるこれらの多寡が味や臭いの違いとして現れます。
- ○実際の製造
- 今回はフィレー燻製製造の例について紹介します。原料のサケは主にアラスカ産などの
冷凍ベニザケが使用されています。塩蔵品を用いるときは塩抜きして使います。フィレーに卸し、
腹須骨を削ぎ落とし、調味塩水に一晩浸漬します。その後、テンダーに掛け、水切りおよび風乾し、
燻室に搬入します。最初の燻乾は20~25℃で2日間燻乾します。日中は風乾し、夜間に燻乾します。
燻乾が終わると、フィレーを木箱に収め、冷所で1~2日保管し水分の調整を行い、
再び燻乾し好みの乾度にします。
- 続いて、腹骨に近い背肉部に縦列している小骨を毛抜きで除去します。また、硬くなった端や
余分なところをハサミで切って形を整えます。最後に、光沢を出すためサラダオイル等できれいに拭き、
真空包装します。貯蔵は-25℃以下で凍結保管します。
-
●フィレー燻製の製造工程図 |
原料 | 傷や身割れのない物を選別。 |
↓ | |
身卸し | 身フィレーは身割れが生じないよう丁寧に扱う。 |
↓ | |
調味浸漬 | 途中手返しをする。 |
↓ | |
燻室搬入 | |
↓ | |
燻乾 | おが屑など燻材の量や着火数で温度や煙の量を調整する。 |
↓ | |
あん蒸 | 冷暗所で水分の均一化をはかる。 |
↓ | |
燻乾 | おが屑など燻材の量や着火数で温度や煙の量を調整する。 |
↓ | |
骨抜き、整形 | 小骨はピンホールの原因となるので注意。 |
↓ | |
製品 | 歩留まりや約35% |
- ○製品の形態・包装
- 棒燻は一般的にセロハンで包み真空包装し、形状に合わせテープ止めし、
化粧箱に詰め販売されています。また、フィレー燻製は真空包装し、
半身ごと化粧箱に詰め販売されているものやスライスに加工した製品もあります。
-
べにざけフィレーの燻製 |
スライスしたべにざけフィレー燻製 |
- ○食べ方
- さけ燻製は、そのまま薄くスライスしてオードブルやマリネとして利用されます。
フィレー燻製を上手にスライスするには、軽く凍らせてから切ると簡単です。
また、棒燻は、甘酢に漬けることにより塩分が抜け、軽い酸味が付与され違った味わいが楽しめます。
フィレーは、スライスしてサンドイッチやカナッペ、押し寿司等の利用も可能です。
木村 稔(北海道立中央水産試験場)
金子博実(北海道立釧路水産試験場)