煮だこ
- ○煮だことは
- 「煮だこ」は「蒸しだこ」ともいわれ、生のタコを茹でたものです。
原料は主にモロッコやモーリタニア等の西アフリカ産を中心に輸入品が
多く用いられています。輸入原料以外にも日本海沿岸で獲れるマダコ、
ミズダコ、ヤナギダコも煮だこや酢だこなどとして加工されています。
独特の歯ごたえと扱いの簡便さから親しまれている加工品と言えます。
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煮だこ製品(「また切り」がされている) |
- ○生産と消費の動向
- タコ(活、生鮮、冷蔵、冷凍)輸入実績の推移を見ると過去5年、
7~12万tで増減をしており、国内のタコ類漁獲量は約5万tで
推移しています。2002年の輸入実績は7万4,000tとやや少なめ、
国内のタコ類漁獲量は5万7,000t、合計で13万2,000tが
国内供給量であり、製品に換算するとおよそ9万2,000tの生産量と推定されます。
- 茨城県の煮だこ生産量は、2001年までは約2万tでしたが、
2002年は1万5,000t(全国の15%)に減少しています。
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タコ類輸入量と漁獲量 |
- ○加工の原理
- 煮だこは、生のタコを茹でることによって、タコ自体の持つ酵素の働きを止め、
魚体表面の微生物を死滅させ、タンパク質の加熱変性で脱水させた、
特有の歯ごたえを持つ製品です。
- タコを茹でると赤くなるのは、煮熟によって黒紫色色素胞からブドウ酒色の
オンモクローム色素が溶出して、それが組織タンパク質と結合するためと言われています。
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●製造工程図 |
原料 | 主に底曳き船で獲るアフリカ産マダコ。 |
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解凍 | 軽く流水しながら自然解凍。 |
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また切り | 目と目の間の下部に切り込みを入れる。 |
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塩もみ | 塩もみ樽を使って10~15%食塩水に浸け3~4時間。 |
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洗浄 | |
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煮熟 | 2~3%食塩水、温度80~95℃15~20分。 |
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冷却 | 水に浸し氷を加え1~2時間。 |
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水切り | |
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選別・包装 | 大きさ別に選別。 |
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検査・出荷 | |
- ○実際の製造過程
- 原料は、主に西アフリカ産の凍結原料(内臓は除去済み)で、
そのほか国産のたこ類も使用します。最初に、また切りと言って出来上がりの
形を良くするため、目と目の間の下部に切り込みを入れます。その後、
タコの腕を形良く丸め、ぬめりや砂等の付着物を除去するために塩もみをします。
塩もみには木樽またはステンレス製の樽を用います。
この樽の大きさには大小がありますが、通常250リットル容のものを用い、
この中に180kgの原料魚を入れ、食塩水(食塩濃度10~15%)を
原料魚がたっぷり浸かる程度に加え、モーター(1馬力)で1分間15~16回転の
速度で3~4時間塩もみをします。酢たこ用のものは、若干短時間にします。
- 次に、濃度2~3%の食塩水(温度80~95℃)で一定時間煮熟します。
煮熟時間は、魚体1kgもので、10~15分間、1.5kgもので、
15~20分間とします。茹ですぎると身が硬くなり歩留まりが減少します。
最近は煮る方法に代えて蒸す方法がとられるようになってきています。
この方法は製品の外観を良くする等の長所があり、近年は煮だこよりも
蒸しだこの方が多く生産されています。
- 煮熟が終わると水に浸して冷却します。軽く攪拌しながら砕氷を加え、
できるだけ速く冷却します。1kgもので、1~2時間浸漬します。
加熱によって殺菌されたタコの状態を保つため、冷却は速やかに行い、
十分に冷却した後も低温で保管・出荷されます。
内臓を除去した原料からの製品歩留まりは70~75%です。
- ○製品の形態・包装等
- 発泡スチロールに氷詰めされます。小売り用はトレーに入れラップで包装します。
- ○成分の特徴
- 煮だこは、高タンパク、低カロリーの健康食品と言えます。タコやイカに
多く含まれているタウリンには、血液中のコレステロールの低下作用や、
疲労回復、視力回復の効果があるとされています。
- 含有量は生100g当たり約870mgです。
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煮だこの成分 |
(%) |
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水分 | タンパク質 | 脂質 | 炭水化物 | 灰分 |
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76.2 | 21.7 | 0.7 | 0.1 | 1.3 |
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- ○食べ方
- 煮だこをそのまま刺身で食べることも多いですが、そのほかマリネ、たこ飯、
煮物、おでん、唐揚げ、たこ焼きなどいろいろな調理の仕方があり、なじみの深い加工品です。
- ○アフリカダコを煮だこにした話
- 近海ダコの漁獲量減少に伴い、昭和36年頃から遠洋トロール船漁獲物である
アフリカダコが日本に入って来るようになりました。当時、このアフリカダコは、
従来の加工方法では足が丸まらないままで、煮だこ加工には適さないと考えられていました。
- しかし、昭和38年、茨城県那珂湊地区の煮だこ業者がアフリカダコを
用いて煮だこ加工化を試験的に進めているうちに「また切り」による加工技術をみつけました。
これにより昭和39年頃にアフリカダコの入荷が本格化し、
那珂湊地区は全国屈指の煮だこ加工の生産地となりました。
矢口登希子(茨城県水産試験場、現 茨城県霞ヶ浦北浦水産事務所)