かつお・まぐろ角煮
- ○角煮とは
- 一般に角煮とは、カツオまたはマグロの煮熟肉を1~2cm程度のサイコロ状に裁断し、
醤油、砂糖などの濃厚な調味液で煮熟したつくだ煮の1つです。生肉をサイコロ状に裁断し、
調味煮熟した”生炊き角煮”や生肉を練り固め裁断し、調味煮熟した”練り角煮”、
角煮を乾燥し、一個ずつ個別包装した”乾燥包装角煮”もあります。
- 角煮が開発されたのは、昭和6年のことで、当時、静岡県焼津に大量に水揚げされた
カツオを処理する方法の1つとして開発されたと言われています。
原料にマグロが用いられるようになったのは昭和24年頃です。マグロはカツオに比べ
製品が軟らかく仕上がるうえ、魚体が大きいことから作業効率がよく、
生産は飛躍的に増大しました。
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- 昭和43年頃には、マグロなどの生の魚肉を練り固めた練り角煮(ソフト角煮など)が出回り、
昭和46年には、簡便性とファッション性を持たせた乾燥包装角煮が開発されました。
この製品は消費者の嗜好とマッチしたことや機械化などにより生産は爆発的に増え、
当時のヒット商品の1つといえるものでした。現在は、一時ほどの生産は見られませんが、
根強い需要があります。
- なお、角煮は各企業独特の方法で製造されており、特に、調味液(たれ)に関しては
秘伝といえるものであります。ここでは角煮製法の一例を紹介します。
- ○生産と消費の動向
- 現在、製品の種類では練り角煮の生産が最も多く、乾燥包装角煮においても練り角煮を
個包装したものが主体となっています。近年の傾向としては、嗜好の変化、健康志向の高まりなどから
減塩、薄味の製品や軟らかい製品が好まれており、今後ますますこうした傾向は進むものと思われます。
- 平成12年の統計によると、静岡県のかつお角煮の生産量は886t、まぐろは491tとなっており、
そのほとんどは焼津およびその周辺で製造されています。
- ○原料選択のポイント
- 角煮には、主としてカツオ、マグロが用いられます。カツオは地元で水揚げされたものを、
マグロは輸入物も原料としています。マグロは軟らかく仕上がるメバチが用いられ、キハダは硬くなるので使いません。
カツオでは7kg以上の魚体の大きなものが、マグロでは30~50kgのそれぞれ比較的脂肪の少ないものが
よいとされています。
- ○加工の原理
- 角煮は醤油、砂糖、水あめなどから作られる濃厚な調味液で煮熟するので、水分が低下すること、
また、煮熟により耐熱性細菌以外の細菌類が死滅することなどから、保存性はかなりよく、
以前は保存食の1つでありました。乾燥包装角煮は乾燥によって水分がさらに低下するため、
さらに保存性がよくなります。
- 近年は嗜好の変化、健康志向の高まりなどから低塩分、薄味の傾向にあり、保存性は以前より期待できません。
賞味期限は、角煮の場合で60日、乾燥包装角煮で90日となっていますが、それより長い場合もあります。
製品の色は調味液や魚肉に含まれる糖類とアミノ酸が加熱により反応し(メイラード反応と呼ばれます)、
褐色~黒褐色となりやすいです。
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●製造工程図 |
| 原 料 | | カツオ、メバチが主体。 |
| ↓ | | | |
| 解 凍 | | 多くは水解凍 |
| ↓ | | | |
| 生切り | | 魚体を四つ割(節)とする。 マグロはさらに四つに切断。 |
| ↓ | | | |
| 煮 熟 | | 沸騰水中で1時間。 |
| ↓ | | | |
| 焙乾(燻煙) | | 30分間燻煙 |
| ↓ | | | |
| 冷 蔵 | | 5℃、約3日間肉質を固める。 |
| ↓ | | | |
| 裁 断 | | 1~2cm角の賽の目状に。 |
| ↓ | | | |
| 調味煮熟 | | 醤油、砂糖などの調味液40分間煮熟 |
| ↓ | | | |
| 冷 却 | → | 一時乾燥 | |
| ↓ | ↓ | |
| 包 装 | あん蒸 | |
| ↓ | ↓ | |
| 検 査 | 二次乾燥 | |
| ↓ | ↓ | |
| 出 荷 | 個乾燥 | |
| (角煮) | ↓ | |
| 包 装 | |
| ↓ | |
| 検 査 | |
| ↓ | |
| 出 荷 | |
| (乾燥包装角煮) | |
- ○実際の製造過程
- 煮熟したブロック肉はセイロに並べ、かつお節やなまり節などの製造に使われている
手火山式焙乾装置(薪には堅木のカシが使われます)で30分ほど燻煙をかけます。
これによって、表面の水分を除くとともに、燻煙臭を付与します。
- その後放冷し、5℃で3日間冷蔵します。これにより水分を均一にするとともに、
煮熟肉を固め裁断を容易にします。これを手切りまたは角煮用裁断機で0.9~2.0cm角の
サイコロ状に裁断します。生炊き角煮では2cm角に、乾燥包装角煮では、1.2cm角にすることが多いです。
- 調味液(たれ)はそれぞれ各企業独自のものが作られていますが、一般的には醤油、砂糖、水あめ、みりん、
日本酒、アミノ酸および核酸系調味料、生姜またはその汁などが使われます。
ソルビット、ソルビン酸カリウム、酸化防止剤、甘味料(ステビア)などの食品添加物を用いた製品もありますが、
無添加にこだわったものもあります。調味液を沸騰させ40分程度煮熟しますが、煮詰めないことが多いです。
特に、乾燥包装角煮では乾燥しにくくなるので煮詰めないことが大切です。生炊き角煮では生肉を裁断した後に、
醤油、砂糖で40分煮熟し、翌日二度目の調味煮熟を60分行います。
- 乾燥包装角煮では乾燥の工程に入ります。一次乾燥は、熱風乾燥機で60~70℃、6時間、二次乾燥は同温度で1時間ほど乾燥します。
乾燥後、振動式選別機で形の整ったものだけを選別し、自動ひねり包装機でキャンディー風に個別包装します。
包材としてはアルミ箔とセロファンをラミネートしたものが使われます。
- ○製造装置
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- 角煮用裁断機(スライサー)
- 本機は振動する刃によって、サイコロ状に裁断する機械です。
- 今でも裁断を手切りで行っているところもありますが、
乾燥包装角煮が開発されてすぐに焼津において本機が開発され、
広く使われるようになり、生産効率は飛躍的に増大しました。
- 調味煮熟装置
- 以前から連式ガスカマドが使われていますが、蒸気を用いた二重釜を使っている所も多いです。
- 連式ガスカマドでは途中2回ほど手返しします。
- 乾燥装置
- ガスを燃焼させ、熱交換した熱風を送風機で送り込む方式が使われています。
一次乾燥した後、一晩放置する”あん蒸”の操作が行われます。
これは内部の水分を拡散作用を利用して表面に導くためで、次の二次乾燥を容易にします。
- 自動ひねり包装機
- キャンデイー用の包装機をそのまま利用したもので、一個ずつ「ひねり」を加えた包装形態に仕上げます。
- ○製品の形態・包装等
- 市販用と業務用とに分かれますが、市販用は130~500g詰めで真空包装されるものが多いです。
箱詰めや他のつくだ煮と詰め合わせしたものもあります。業務用は1~2kg詰めされています。
- 乾燥包装角煮は、市販用は80g詰め、業務用は500g詰めとされています。
業務用は先方でさらに小袋詰めや他の珍味類との詰め合わせにされ市販されます。
- ○安全・衛生管理
- つくだ煮の製造は食品衛生法第52条同施行令第35条の定める「そうざい製造(通常副食物として供される煮物
(つくだ煮を含む。))」に該当するので、都道府県知事の許可を受けるとともに、建物の構造など施設基準の適用も受けます。
- また、添加物は食品衛生法第7条および第10条の規定に基づき定めた「食品・添加物等の規格基準」の適用を受けます。
- ○成分の特徴
- かつお角煮(100g当たり)水分41.1g、タンパク質31.0g、脂質1.6g、炭水化物21.4g、灰分4.6g、鉄6.0mg
(五訂増補日本食品標準成分表)
- 乾燥包装角煮(100g当たり)水分20.0g、タンパク質40.0g、脂質1.5g。炭水化物29.1g、灰分9.2g
- ○食べ方
- 一般にはそのままそうざい(副食物)として供されますが、おにぎりやお茶請けにもよいです。
乾燥包装角煮はおつまみに適しています。
長谷川 薫(静岡県水産試験場)
全国水産加工品総覧 編集委員会編
監修 福田裕、山澤正勝、岡崎惠美子 A5判、638頁、¥7,500(本体)+税 発行所(株)光琳
この本は水産総合研究センターが主催する水産利用関係試験研究推進会議において、刊行することが合意され、都道府県の試験研究機関関係者など約150名もの専門家により執筆されたものです。
さらに詳しく知りたいなど、ご興味がある方は、この本を是非ご覧になって下さい。
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