かじき・まぐろの味噌漬け

○かじき・まぐろの味噌漬けとは
 まぐろはえなわ漁船の基地として名高い、神奈川県三崎(港)においては、昭和30年代から行われていたなまり節に代わる加工製品として開発され、 その後数十社による製造が始まり、50年以上にも続くベストセラー商品として現在に至ります。
 当初、クロマグロやメバチは、刺身素材として評価が高いものの、同時に漁獲されるカジキ類については、その肉色が淡桃色や淡黄色であったことから、 刺身素材としての評価が低い状態にありました。そこで、新たな加工品の開発が要望され、肉色によって商品の品質が左右されない、味噌漬けが開発されました。
 しかし、当時はながものに分類されるカジキ類は知名度も低いことから、「かじきまぐろ」の名称で販売したところ、カジキ特有の身の歯ごたえと旨味により、 消費が著しく上昇し、さらに各社独自の味噌のブレンドによって、さまざまな味の製品が姿を現すこととなりました。
 「かじき・まぐろの味噌漬け」の主原料としては、マグロ類のキハダやメバチ、カジキ類ではマカジキ、メカジキ、シロカジキ、クロカジキなどが用いられて、 そのうち高級製品にはメカジキやシロカジキが使われています。
かじきの味噌漬
かじきの味噌漬
味噌漬の写真は、すべてカジキ(シロカジキ、クロカジキ)である
○副原料
 味噌の種類としては、白味噌、淡色味噌、赤味噌があり、以下のとおりとなっています。
白味噌: 米を大豆の倍以上の比率で使うことが大きな特徴です。茹でた大豆と米麹を約2週間程の熟成を行い、空気に触れることによって起こる変色を防ぐため、 切り返しを行わないで仕上げます。きめの細かさと淡いクリーム色が特徴であり、まろやかな味には上品な甘味と芳香があります。
淡色味噌: 味として甘味噌から辛味噌までがあります。甘味噌では2~3週間の短期熟成を行い、光沢のある淡黄色とさわやかな香りが特徴であり、 さっぱりとした味が味わえます。辛味噌では熟成期間が2~6ヶ月と長期になり、山吹色と色が濃くなっています。味は白味噌と赤味噌の間で、 市販されている味噌の多くがこれに当たります。信州味噌や長崎味噌などが、代表にあります。
赤味噌: 赤褐色をした味噌で、白味噌などに比べ大豆の味が表に出てきます。甘味噌では発酵の芳香が甘みと重なって旨味になり、 辛味噌ではその濃厚な香臭が濃い熟成された味と調和します。この味噌は熟成期間が長く、甘味噌で3~6ヶ月、辛味噌で3~12ヶ月の熟成を行います。 代表的なものに仙台味噌や江戸味噌があります。
 これらを目的の味に調合し、みりんや日本酒にて適当な粘度に調整します。その際には、淡色味噌をベースに少し甘めにするのが主流です。
○原料選択のポイント
 原料魚となるマグロ類のキハダについては、遠洋まぐろ延縄漁業等で漁獲された、40kg以下の価格の比較的安いものを用いているほか、メバチ等についても、 小型魚で価格の安いものであるものや、刺身用に栽割した端材等を利用しています。また、カジキ類では特にクロカジキ、シロカジキが多く、 主に春先に東南アジア沿岸域で漁獲された冷蔵魚を凍結したものを、年中使用するほか、日本沿岸域のマカジキやメカジキ、遠洋まぐろ延縄漁業で漁獲された クロカジキ、シロカジキを用いています。
 マグロ類に関しては、刺身用素材として漁獲され、ただちに凍結されたものを用いています。脂肪含量の多いものが上級品として扱われます。
皮とり
皮とり
切り身のサイズ調整
切り身のサイズ調整(重さの測定)
サク取り
サク取り
攪拌機による合わせ味噌の調整
攪拌機による合わせ味噌の調整
○加工の原理
 解凍魚および鮮魚を80~120g、大判では180g程に斜めそぎ切りし、そのまま味噌と合わせることもありますが、数%の冷却塩水に漬け、 または魚肉に塩を振って脱水するとともに、魚肉表面のタンパク質に坐りを起こさせ、食感の向上を図ります。
 その後、魚肉1つ1つに調合した味噌を刷毛などで、塗りつけを行うか、さらに大量生産を行うときには、どぶ漬けという大型の容器に調合した味噌を入れ、 直接、前処理した魚肉を投入し、数時間から数日間の味を馴染ませることを行います。この工程は魚種やその品質(生鮮、解凍原料等)で短期的な馴染ませのほか、 長期間の熟成を行います。袋詰めにした後、冷凍保存あるいは冷蔵で貯蔵します。
●製造工程図
原料
解凍
四割
細割
塩降り
味噌調合
味噌漬
包装
梱包
凍結
製品
○実際の製造
 味噌床については、各社によって異なり、数種類の味噌をブレンドし、みりんや日本酒でお汁粉ほどの粘性にまで伸ばして、味が調うまで混ぜ続けます。 また、味噌業者や調味料業者に配合を依頼して、数日から数週間熟成させて風味が調ってから用いる場合もあります。その際、冷蔵にて保管し、 発酵が進んでガス等の発生がないようにします。
○製品の形態・包装
 1枚ずつ包装紙で包んだもののほか、6枚組10枚組など1つの袋に詰めたものがあります。 また、マグロ類やカジキ類の各種を合わせたセット品が贈答用として人気が高いです。
○安全・衛生管理と表示
 調合した味噌が異常発酵や雑菌の混入による異臭や変色を起こさせないため、低温保存とともに、取扱いの際にはアルコールによる殺菌した器具や手袋を着用します。 特に、6月頃の梅雨時期には、調合した味噌の変質が多く、その多くはカビ等の真菌類の繁殖によって発生し、特に異臭や異味の発生が目立ちます。
○成分の特徴
 味噌には、ガン予防、胃潰瘍の予防、コレステロールの抑制、老化防止、消化促進、整腸作用、美容効果、脳の新陳代謝促進などが知られています。
 味噌の主原料である大豆は、良質のタンパク質を豊富に含み、発酵によって加水分解され、タンパク質の約30%がアミノ酸に分解され、必須アミノ酸も多く含まれます。 そのほか、ビタミンやカリウム、マグネシウムなどのミネラルも多く、総合的に豊富な栄養素を単品で得ることができます。 
○食べ方
 魚を焦がさず焼く方法として、魚をアルミホイルで一巻きし、特に魚とアルミホイルの間に隙間を入れるように巻いて、 両端はしっかり塞ぐのがコツで、強火で15分程度焼きます。そのほかに、薄くサラダオイルをひいたフライパンにフタをして、弱火で7分~10分ほど焼く方法もあります。

臼井一茂(神奈川県企画経営部主任研究員)