栗本丹洲纂,大淵常範[ほか]校録,1838(天保9)年,50丁,27cm
(巻一、巻二の合本)

  江戸時代の医者であり本草学者でもあった栗本丹洲が編纂した魚類の図譜です。 当時有用な植物に関する書物が多くあるのに対し、動物特に虫や魚に関する書物が少ないことを憂いて、丹洲は長い年月をかけて虫や魚の図譜を作りました。『皇和魚譜』のほか『栗氏魚譜』『千蟲譜』などがそれです。また、丹洲はたいへん画技に優れ科学的で観察力に富んでおり、シーボルトの『Fauna Japonica』(1833-1850)に丹洲の甲殻類の図が引用されたほどでした。こうした研究への姿勢や観察眼は本草学者の枠を越えて博物学者に近いところにあったといえるでしょう。
  さて、『皇和魚譜』は丹洲の夥しい著作の中で唯一出版されたもので、丹洲の没後4年後に外孫の大淵常範らが出版しました。二巻からなっており、巻一では「河魚類凡五一種」、巻二では「河海通在魚類凡一三種」を図説しています。琵琶湖、越前、筑後など分布が広範囲に及び、図も文も簡潔で要を得ています。しかし、残念なことに、図は印刷に適するよう丹洲の友人栗本伯資が模写したものを載せており 、丹洲本来の写生の質の高さは失われています。カジカの図の背腹両面を描いているところなどに、丹洲の観察者の視線を感じ取ることができます。